2016年11月5日 (土) 福岡市博多区のアクシオン福岡では様々なパラリンピック競技を子供たちが体験できるイベントが開かれた。普段の生活の中で、障がい者の子供たちとパラリンピック競技の出会いの場は少ない。同様のイベントは青森、静岡でも開かれており、全国規模で未来のパラリンピック選手を発掘しようという試みである。
ミットと蹴りの「バチンバチン」という音が鳴り響く。会場の一室ではパラテコンドー体験が行われていた。テコンドーは韓国発祥の格闘技で、胴プロテクターやヘッドギアなどの防具を付けた状態で手足を使って攻撃をする競技である。パラテコンドーに関しては頭への攻撃は認められておらず、胴体に蹴りが入ったら1点、回し蹴りが入れば3点というとてもわかりやすいルールだ。手は使えるが得点にはならず、KOによって勝敗が決まることもある。キョルギ(組手)が2020年の東京パラリンピックで初めて正式競技となる。
障がいのある子供たちにテコンドーの楽しさを伝える、高橋健太郎選手の姿がアクシオン福岡にはあった。高橋選手が中心となり、福岡テコンドー協会の皆さんとともに子供たちの体験会が行われた。韓国発祥ということから、試合や練習では韓国語が使われる。まずは韓国語のあいさつと数え声で、準備体操から元気に進んだ。その後は蹴りの体験だ。しゃもじ型のミットに前蹴り、回し蹴り、かかと落とし、後ろ蹴り、1回転回し蹴りをする練習に、子供たちは選手たちと一緒に挑戦した。初めはぎこちなく、表情も硬かった子供たちだが、回数を重ねるごとに蹴りにスピードと力強さが見られるようになり、表情もほぐれていった。蹴りの楽しさを知った子供たちは、最後に高橋選手との組手に挑戦した。子供たちの蹴りをひらりひらりと高橋選手はかわし、子供たちが懸命にそれを追った。部屋に入って来た時の子供たちの硬い表情はもうどこにもなく、楽しそうな顔を覗かせた。「礼」で高橋選手と握手をして組手を終了し、和やかな雰囲気で体験を終えた。
私も子供たちの後にパラテコンドーを体験させていただいた。パラテコンドーに限らずテコンドーに触れる機会がないので、非常に貴重な体験であった。取材時に見た子供たちの顔は生き生きとしており、私自身、蹴りの体験で爽快な気分を味わうことができた。今まで知らなかった、やったことがないということとその競技が面白いかどうかに関係はない。実際にまずはやってみるということが大切であると感じた。
「障がいのある子供たちが楽しめるような道をつくってあげたい」と語る高橋選手。今回のようなイベントは、テコンドーと未来のパラリンピック選手との出会いの場となるだろ う。パラテコンドー日本代表の座を狙う高橋選手は「東京パラリンピックの表彰台は誰にも譲れない。」と熱く語った。
会場内には、パラテコンドーのほかにも多くの競技を体験できるブースが設けられていた。こうしたイベントで子供たちに体を動かす楽しさを知ってもらい、高橋選手のように自分に合った競技を見つけ、挑戦する。そうすることで子供たちの今後の人生は大きく変わっていくはずだ。高橋選手がパラテコンドーについて「普通のスポーツです。向き不向きはない」とおっしゃっているように、まずは自分の可能性を信じてやってみるということが重要であるといえるだろう。
参加者の声
中学生男子
(体験会に参加して) 楽しかったです。
(面白いなと思ったところは) かっこよさそうな技がありました。
(難しかったところは) 回し蹴りが難しかったです。足をあげるのも難しかったです。
(またやってみたいですか) またやってみたいです。
小学生男子
(テコンドーをやってみて) 初めてだったけどすごく楽しかったし、いろいろ体験ができました。
(1番楽しかったことは) 最後に高橋選手と戦ったときが1番楽しかったです。
(高橋選手みたいに強くなりたいと思いましたか) はい。
(またやりたいと思いましたか) またやってみたいです。
小学生女子
(体験会に参加して) 楽しかったです。
(面白いなと思ったところは) 蹴りの練習が面白かったです。
(難しかったところは) 足をあげるところです。
選手インタビュー
高橋健太郎選手
(パラテコンドー選手に認定されて) 嬉しいです。東京に向かって、メダルに向かって頑張ります。
(福岡では教室を開かれていますが) 福岡で子供達と一緒に頑張っています。
(体験会で実際に子供たちにご指導されて)自分も障がい者という枠の中で光が当たらない狭い環境で生活しているので、楽しいです。実は障害があることを家族にも言ってなかったのですが、きっかけがあって、また パラテコンドーをやろうと思いました。障がいのある子たちの気持ちがすごく分かるので、少しでも楽しめるようになってあげたいです。そういった子供たちに道を作ってあげたいです。
(パラテコンドーはどのような存在か) 世界は変えてくれましたね。20年ずっとやっていたのですが、パラリンピックの種目に決まって、光が差してきたなと思います。今は本当に楽しいです。
(パラテコンドーの魅力は) 自分もできるという可能性を感じることって日々の日常ではあまりないと思います。パラリンピックでテコンドーをやっていくとこれもできるんだ、リハビリをすればこれもで きるんだ、と一つずつ感じることができて自分の可能性が広がっていくのでとても楽しいです。
(練習はすべて韓国語を使うのですか) 挨拶から数えるものまで全て韓国語です。
(練習メニューは) まず柔軟から入ってミット、キョルギ、型、筋トレの順にやります。
(得意技は) パラでは反則ですが、ネルチャギというかかと落としの技が好きです。もともと障がい者の大会ではなく、一般の大会に出ていたので、ネルチャギの技が決まった時の爽快感は言葉にできないものがあります。
(パラテコンドーの向き不向きは) 格闘技というと敬遠されがちですが、普通のスポーツです。声を出して、力いっぱい、伸び伸びとできるので、向き不向きはないと思います。自分のペースでできるスポーツなので、障がいのある方から一般の方まで、老若男女問わずできます。
(慶應スポーツ新聞会 記事 鈴木啓仁、写真 鈴木啓仁・反保真優)
パラテコンドーとは
http://ajta.or.jp/taekwondo/para/
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