日本財団パラリンピックサポートセンターのご支援により、「慶應スポーツ新聞会」の室塚あす香さんと反保真優さんが第1回 障害者総合パラプムセ競技大会を取材してくれました。初めて試合を見たパラプムセ競技と選手取材の記事をご覧ください。
第1回 全日本障がい者総合テコンドープムセ選手権大会
6月18日、滋賀県立武道館において第1回 全日本障がい者総合テコンドープムセ選手権大会が開催された。健常者との共催となったこの大会に窪田英司選手、三浦光太選手、柴田佳祐選手、伊藤力選手、高橋健太郎選手の5名が出場し、気迫のこもった型を披露した。
パラテコンドーの魅力 プムセとは
華麗な足技が魅力のテコンドー。韓国の伝統競技であり、心技体がそろった武道である。漢字では「跆拳道」と表され、「道」という字には“正しき道を進む精神”という意味が込められている。
種目は大きくキョルギとプムセの二つに分かれる。今回はいわゆる「型」とよばれるプムセの大会であった。攻撃と防御の技を一人でも練習できるように創られた種目だ。立ち方や足技、手技など、基本動作は全部で約3200種類ある。45秒間であらゆる方向に動きながら、それらを全身で組み合わせて技の正確さや表現力を競い合う。
特徴は、最初から最後まで途切れることのない集中力と、相手と戦うキョルギとは異なる繊細さが要求される点だ。また、スピーディに高く蹴り上げる足技は力強さと美しさを持ち合わせており、迫力満点である。試合前には選手たちがお互いの型を確認し合い、和やかに話をする姿も見られた。仲間と共に汗をかきながら、心の強さや礼節を学べるのもパラテコンドーの大きな魅力だ。
課題あり、収穫ありのプムセ大会
第1回目の開催となったプムセ大会。先陣を切ったのは窪田選手だ。丁寧かつ正確に、次々と技を決めた。一際大きな声を出し、気持ちを前面に押し出した型であった。
二番手は三浦選手。練習ではパンチを交互に1000回繰り返す千本突きを実践しているそうだ。最後は気迫溢れる声でフィニッシュ。体調が万全ではなく思い通りにはいかなかったが、この悔しさを次に生かしてほしい。続いては「いろんな人と巡り合える」ことがパラテコンドーの魅力と語ってくださった柴田選手が登場。体を大きく使ったキレのある動きで、力強さを目いっぱい表現した。足を高く上げたしなやかな蹴り技は圧巻であった。
次に緊張した面持ちの中で登場したのは、伊藤選手。プムセ大会出場は初めてであり、練習においても師範不在の中で臨んだ。そんな逆境をはねのけ、洗練された動きで美しい技を披露。少しミスはあったものの、試合後は「楽しんでできた」と充実の表情を浮かべた。
最後を飾ったのは、高橋選手である。自分が頑張ることでリュウマチを患う世界中の人々に少しでも勇気を与えたい、という思いから再び競技と向き合う決意を固めたそうだ。研ぎ澄まされた集中の中で端正な型を見せ、柔と剛の両側面を見事に体現した。選手たちはやり切ったという達成感を味わうと共に、今後に向けての課題を再確認したようだ。
東京パラリンピックへの想いと競技発展に向けて
パラテコンドーのキョルギが、2020年東京パラリンピック正式種目に決定した。パラリンピックを目指す選手にとっては、4年後の大舞台の存在が大きな原動力となっている。同時に、今後は競技の発展も必要不可欠である。これまでパラリンピックの種目には打撃の競技がなかった。
パラテコンドー特有のダイナミックな動きと、競技を通して培われる真の強さは、大きなアピールポイントといえるだろう。だが、まだまだ知名度は低く、競技人数が少ないのが現状だ。パラテコンドーは特に上肢障がい者部門と知的障害の部門に力を入れている。
最近は他種目から転向する選手も増えているようだ。普及に向けて高橋選手は「一生懸命頑張る姿を見せたい」、伊藤選手は「多くの人に楽しんでもらえるようにするのが第一」と語ってくださった。組手や型のかっこいい姿や仲間と支え合いながら競技に励む姿を通じて、これからもたくさんの人にパラテコンドーの魅力を伝えてほしい。
選手インタビュー
窪田英司選手
(今日の演技を振り返って)小学校5年生からテコンドーを始めました。これから頑張ってパラリンピックで金メダルを取りたいです。
(パラテコンドーを始めたきっかけは)5年生からずっとテコンドーをやっていました。
(自分でやりたいと言って始めたのですか)はい。
(今日の試合で良かったところは)プムセの八でかっこよくできたところです。
(これからどのような練習をしていきたいか)パラに向けて最後まで練習していきたいです。
三浦光太選手
(今日の演技を振り返って)本調子ではなかったので、今回は予備のプムセを用意していたのでそれを実行しました。体の調子も悪かったので本調子を出せなかったことは悔しいですが、次こそは万全にして臨みたいです。
(パラテコンドーを始めたきっかけは)僕の父親のすすめで始めました。
(いつから始めたのですか)三年から四年前です。
(テコンドーの魅力は)かっこいいところです。蹴りの高さや板を割ったときの感覚が好きです。
(つらい練習を経てやりがいを感じる瞬間は)千本突きという、交互にパンチを1000回繰り返す練習を終えた時は確かに痛いのですが、やり遂げたという達成感があります。
(パラリンピックへの目標はありますか)今はまだ不安なところもありますが、これからどんどん鍛えていって、目の前のことをとにかく頑張っていきたいと思います。
(パラリンピックのテコンドーをもっとお客さんに見てほしいという思いはありますか)僕よりももっと不自由な方もいると思うので、テコンドーをみて勇気づけてもらえたらと思います。
柴田佳祐選手
(今日の演技を振り返って)最後の部分を少しよろついて決めきれなかったのが残念でした。
(ここまでどのような練習をしてきたか)いろんな師範に指導していただき、それを実行しました。
(練習の成果は感じられましたか)成果は出たと思います。
(パラテコンドーを始めたきっかけは)以前からこのような武道系をしたいと思って、道場があったので入館しました。
(いつから始められましたか)23歳のときです。
(他の選手の試合は見ますか)大会で道場内の選手が出ていると応援しに行きます。
(テコンドーをやっていて大変なことは)仕事のこととテコンドーのことを分けることが大変ですね。
(この先の目標は)パラや世界選手権を目指してやっていきたいです。
伊藤力選手
(今日の演技を振り返って)プムセに取り組んだのは初めてで、大会に出るのも初めてでした。非常に緊張して失敗もありましたが、楽しんでできました。
(どのような練習を重点的にしてきたか)師範もいないような環境でやっているので、基本に忠実にやろうという思いで練習していました。
(プムセの難しさとは)キョルギは気持ちでもっていける部分があるですが、プムセは繊細なところもあるので、柔と剛の使い分けが必要なのかなと思います。
(パラテコンドーを始めたきっかけは)もともとは障がい者サッカーをやっていました。パラテコンドーが2020年東京パラリンピックの競技に採用されて、たまたま誘われたのをきっかけに始めました。
(東京パラリンピックを目指されていますか)はい。今、精進しています。
高橋健太郎選手
(パラテコンドーを始めたきっかけは)もともとテコンドーをしていました。病気を発症して始めはする気はなかったのですが、リュウマチの方が世界中に多くいるので、自分が頑張って少しでも力になれればと思って始めました。
(今日の演技を振り返って)めちゃくちゃ緊張しました。プムセの試合は初めてだったので、コンディションを整えて出て参加することが目標でした。
(プムセの難しさとは)減点方式でできなかった分正直に点数が引かれていくので、痛いところをかばうこともできないし、ごまかしが気かないところが難しいですね。美しく正確にというのが本当に難しいと思います。
(パラリンピックを目指されていますか)思いっきり目指しています。できればパラリンピックに出場して、表彰台は誰にも渡したくないなと思います。
(取材・写真 室塚あす香、反保真優 記事 反保真優)